幸村の雪待日和

ゆきむらゆきまちのぶろぐ

めだかボックスにおけるロール(役割)とキャラクター(人格)の話(仮)

 今週のめだかボックスにおける安心院さんのスキル大盤振る舞いを見て。

 西尾維新はコミックス15巻でキャラクターは変わっていくものというニュアンスのコメントを書いている。

 西尾維新はかつて、戯言シリーズ人間シリーズでスキルがそのまま人格と直結し、それ故にスキルと己のキャラクターに殉じて死んでいく人々を数多く書いてきた。かれら「生き止まった」キャラクターたちは単発のバトルものやミステリには非常に適したキャラクターであった。彼らは己の役割を心得ていた――ミステリにおいては犯人、探偵、傍観者、被害者その他諸々。バトルものにおいては殺し名、呪い名に象徴されるスキルがすなわちキャラクターと人格を規定する勝者と敗者である。そして、彼らはいずれも生きながらに死んでおり、同時に死んでいるからこそ己の生を全うすることが出来た。

 それは例えば奈須きのこのFATEにおいては英霊であり、虚淵玄のまどマギにおいては魔法少女に相当する。広江礼威ならば双子、平野耕太なら少佐や大尉、そしてアンデルセンその人だ。彼らもまた、すでに生きながらにして死んでいるからこそ自覚的、あるいは無自覚に生を全うする――スキルあるいはキャラクターに準じたロールを演じきることが出来た存在である。

 しかし、ここにしばしば転倒が生まれる。例えば虚淵のFATE/ZEROを見てみよう。英霊は確かに己の生を――仮初であれ生きているかもしれない。しかし、では彼らを使役するマスターはどうか。

 子供であるウェイバーを除いて、他の全てのマスターたちは凝り固まっている。願いと残念のかたちである英霊よりもなお、彼らはスキルとキャラクターが一致してしまっており、それ故ロールを演じざるを得ない――否、演じさせられている。ZEROは誰かが言っていたようにZEROへ向かう物語であり、であればむしろ彼らがそういうものとして組み立てられていることは必然ではあるのだろう。

 創作者はそれぞれの作品に最適化した自分、というロールを演じる。故に、無意識の発現によるキャラクターの変化をひとり歩きと呼ぶのなら、それはやはり創作者の意図とは離れたところで起きたものと呼べるだろう。無意識には創作者が知らず吸収した他人の視点も含まれるだろうから。

 ぼくの勝手な印象で言えば、虚淵玄はキャラクターのひとり歩きをあくまで拒否してひとつの物語に殉じさせる創作者(というロールを演じている)人であり、奈須きのこはひとり歩きに任せた結果後付設定を際限なく創りだしていく創作者(というロールを生きている)人である――そして西尾は恐らくある程度意識的に両者の中間地点に立っている。演じつつ、生きている。

 ここで西尾のコメントに戻ってみよう。例えば――創作者が変化しないものとして定めたキャラクターがひとり歩きすること、はよくあることらしい。しかし、ひとり歩きした結果、なおあえて同じロールをキャラクターが選ぶこともあるだろう。しかしそれも創作者にとっては変化なのだ。

 安心院なじみというキャラクターについて考えてみよう。安心院さんは複数のスキルを持つが、それでもなおそういうキャラクターというロールにとらわれている――否、いた。

 しかし、めだかボックス本編の物語はそのロールを無効化する。今や彼女はスキルとは独立したキャラクターとして「生きて」いる。そして生きている以上はひとつのロールに殉じて生を全うすることは「出来ない」のだ。

 そう考えたとき、今回の大盤振る舞いはスキルとロールの一対一の関係を相対化した戯画とも受け取れよう。

 化物語以降――いや、正確には串中弔士を書いて以降、西尾維新はスキル≒ロールに殉じるキャラクター、「生き止まった」キャラクターを書くことに飽いたのかもしれない。いーちゃんが戯言シリーズ全部かけて、零崎人識が人間シリーズ全部かけてたどり着いた場所を、彼はめだかボックスにおいて全てのキャラクターに与えようとしている――そんな気がしなくもないのだ。

 

 ……なんてな。

 

 まとまらないのでとりあえずここまで。

 

追加:

 以前、鎌池和馬については魔法使いがスキル≒ロールであるのに対し、学園都市の能力者は必ずしもそうではなく、単なるスキルの行使者にすぎないと書いたことがある。これを以て魔法使いが死者ゆえに生を全うする者であり、能力者はそうではない、と考えることは可能だろうか?

 否だ。禁書に登場する能力者はそのほとんどが子供であるが故に。彼らは生き止まる前の存在である。そして、まさに打ち止めが救われたように、彼女によって一方通行が救われたように……そしてもちろんインデックスが救われたように、彼らはもちろん大人の魔法使いをも死者ではなく生者とするために幻想殺しは存在する。

 スキルを無効化することによってロールから開放する――生き止まりの破壊者、それが上条当麻だ。 西尾においては哀川潤や黒神めだかが彼に相当するのは言うまでもないだろう。